前回は「山口多聞の悲痛な思い〜この世から消える飛龍を前に・若者たちとの約束と確固たる決意・形見の帽子・米海軍への反撃を断念した山本長官〜」の話でした。
山口多聞の魂の叫び:自沈する飛龍を前に
もはや大炎上して沈没寸前の飛龍。
沈没寸前ですが、まだ沈没が決まったわけではありません。
内地(日本本土)まで無事に曳航できれば、修理してまた戦えるはずの飛龍。
ところが、
飛龍を、
自沈処分せよ・・・
「飛龍の自沈処分」を決定した連合艦隊司令部。
・・・・・
「自沈」とは文字通り「自ら沈める」ことであり、自軍の艦船を魚雷等で沈没させることです。
我が飛龍を
自沈か・・・・
やむ得ませんが・・・
なんとも言えませんな・・・
そして、加来艦長が、
私は
艦に残る!
「残る」と発言したのに続いて、
私も飛龍に
残る!!
「私も残る」と言い出した山口司令官。
日本・英国などの海軍においては、「沈みゆく艦と艦長が運命を共にする」習慣がありました。
これは「規則」などではなく「艦長の判断」によりますが、多くの艦長は「沈む艦と一緒」でした。
「非合理的」と考える方もいるであろう、この習慣は米海軍にはありませんでした。
日本にあったこの「艦と艦長が運命を共にする」習慣は、艦長までで本来司令官は無関係です。
艦長より上位の司令官・司令長官は戦隊・艦隊全体に責任を持っているからです。
山口司令・・・あなたは将来、
我が連合艦隊司令長官となるべきお方・・・
ここは
生き延びてください!
懇願するように退艦を要請する加来艦長に対して、山口司令官は、
自分に
死に所を得させてくれ・・・
頑なに意見を変えません。
そして、山口司令官・加来艦長・幕僚たちが沈痛な会話が続きます。
山口司令!
一緒に退艦してください!
いいのだ!
ここで私は飛龍と運命を共にする!
山口司令・・・
何か形見を下さい・・・
そうか、
これを・・・
自らの軍帽を形見として幕僚に渡した山口司令官。
・・・・・
・・・・・
この間も飛龍は炎上を続けており、早々に総員退去しなければ非常に危険です。
一度は「仕方ない」と考えた加来艦長。
しかしながら、感情が許しても理性が許しません。
山口司令・・・
やはり・・・
お気持ちは、
十分にわかります・・・
しかし、ここで山口司令が
運命を飛龍と共にするのは・・・
我が大日本帝国海軍に
とっては・・・
非常に優れた頭脳を持ち、確かなる戦略眼と優れた戦術指揮能力を持つ山口司令官。
長年、中国大陸で陸上の海軍航空隊を指揮し、現在は空母で海軍航空隊を指揮する歴戦の士 山口司令官。
明晰な頭脳、将兵に慕われる人柄、そして豊富な経験。
これほどの人物は世界各国の海軍を探しても、なかなかいないレベルの将軍です。
私は、友永や小林と
約束したのだ!
なんとか・・・
そこをなんとか・・・
山口司令官に話しかける加来艦長。
キリッと周囲を睥睨する山口司令官。
これで
良いのだ!
ところが、山口司令官は考えを一切変えません。
山口司令!
私からもお願いです。
なんとか、
大日本帝国海軍の将来のためにも・・・
もう
決めたのだ!
みんな、
分かってくれ!
山口司令官の瞳がきらりと光ります。
ここで、加来艦長・幕僚たちは最終的に断念します。
承知・・・
承知しました・・・
それでは、
私もお供します・・・
幕僚たちもまた、沈痛の極みながら山口司令官の意思を尊重します。
山口司令!
おさらばです!
山口司令!
お世話になりました!
うむ・・・
言葉少なに応ずる山口司令官。
そして、山口司令官・加来艦長を残し、他の幕僚・将兵は無念の退艦となります。
学生時代に戻った山口司令官と加来艦長:先輩と後輩への思い
将兵たちは飛龍から離れ、いよいよ 味方駆逐艦から飛龍に魚雷を打ち込む準備にかかります。
月でも
眺めようようじゃないか・・・
なあ、
加来くん・・・
はい・・・
良い月ですね・・・
山口さん・・・
もはやお互い司令官でも艦長でもなく、「海軍兵学校の先輩と後輩」です。
長い・・・
長い戦いだったな・・・
皆本当に、
よくやってくれました・・・
ははは・・・
ははは・・・
これから沈んでゆく身の二人。
学生の頃に戻ったかのような気持ちで、お互いを見つめます。
・・・・・
・・・・・
山口司令官は、重職につく海兵の先輩たちに対して想いを馳せます。
永野さん、山本さん、
小沢さん、伊藤さん・・・
あとは、
あとは頼みました・・・
海軍兵学校卒業期 | 名前 | 役職 |
32 | 山本 五十六 | 連合艦隊司令長官 |
36 | 南雲 忠一 | 第一航空艦隊司令長官 |
37 | 小沢 治三郎 | 南遣艦隊司令長官 |
39 | 伊藤 整一 | 軍令部次長 |
40 | 山口 多聞 | 第二航空戦隊司令官 |
41 | 草鹿 龍之介 | 第一航空艦隊参謀長 |
42 | 加来 止男 | 飛龍艦長 |
52 | 源田 実 | 第一航空参謀 |
52 | 淵田 美津雄 | 第一航空艦隊飛行長 |
59 | 友永 丈一 | 第二航空戦隊飛行長 |
62 | 小林 道雄 | 飛龍飛行中隊長 |
そして、これまで、そしてミッドウェーの死闘を戦ってきた海兵の後輩たち。
友永、
小林・・・
よくぞ・・・
よくぞ戦い抜いてくれた・・・
約束通り、これから
そちらへ行くぞ・・・
航空隊の両輪の要である、源田と淵田の生死も不明です。
源田と淵田は、
大丈夫だろうか・・・
あの赤城の大爆発から
逃れただろうか・・・
源田!淵田!
後は頼んだぞ!
同期への最後の叫び:花の海兵40期の男たち
最後は、なんと言ってもやはり海兵(海軍兵学校)同期に想いを馳せます。
山口の同期海兵40期は「花の40期」と言われ、非常に優れた人物たちを輩出しました。
山口と共に航空隊の指揮を務め、今は航空部隊の要である航空本部総務部長の「空母航空派」大西瀧治郎。
この瞬間も山本長官と共に戦艦大和に搭乗し、連合艦隊参謀長を務める「大艦巨砲派」宇垣纏。
軍令部第一部長として、伊藤次長に次ぐ権限を有する「中間派」福留繁。
大西、宇垣、
福留・・・
特に大西と山口とは、共に大酒飲みの「大の仲良し」でした。
「大親友だから」こそ、戦争の方針を巡って何度も大喧嘩しました。
大西とは、何度激しい
殴り合いの喧嘩をしたっけ・・・
様々な過去が、彗星のようにパーっと山口の頭の中を駆け巡ってゆきます。
・・・・・
みんな、
後は頼む・・・
山口司令官の悲痛な最後の叫び。
それは、海軍兵学校の先輩・同期・後輩に届いたのでしょうか。
次回は上記リンクです。