前回は「優等生・山口多聞の肖像〜優等生と実務能力・最前線の第二航空戦隊司令官へ・強い信念と多くの優れた提言・徹底した積極性〜」の話でした。
真珠湾へ向かう山口多聞:海軍兵学校の成績と人事
外部の人間から見れば、異常に見える「卒業席次最優先主義」の軍令承行令。
この「席次最優先」は主義・前例を超えて、名文化された法令になっていました。
「卒業席次によって、人事が決まる」日本海軍。
このような歪な社会の中で、山口は粛々と、そして熱意持って生きてゆきます。
制度は制度。
仕方ない!
山口に対する嫉妬もあったのでしょう。
南雲司令長官は山口の提言を、ほぼ全て退けます。
山口も優秀だが、
私も優秀だ!
山口が2位卒業なら、
私は5位なんだぞ!
私は11位だ。
学ぶ上でも、実社会でもライバル意識は出てきます。
学びの上では、
A君に勝てるように
頑張るぞ!
次はBさんに
負けないわ!
という意識は大事です。
学ぶ上で、向上心は非常に大事です。
ただし、そのライバル意識が判断を健全な判断を妨げる時、組織は誤った方向に行きます。
山口より
私は4期上だ!
4期
先輩なのだ!
確かに、中学・高校に相当する海軍兵学校において「4期の差」は大きいです。
当時、海軍兵学校を中高一貫校に例えると山口が中学一年生の時、南雲は高校二年生です。
これは、「非常に大きな差」でありました。
曖昧な権限:南雲長官と山口司令官の立場
司令官といっても、上に南雲司令長官がいます。
つまり、「山本長官が社長」なら「南雲司令長官は専務取締役、山口司令官は取締役」という感じです。
南雲と山口・・・
なんとか二人で、仲良く
やってくれないだろうか。
司令官と言えども、上に南雲司令長官がいる以上、実際の戦闘での最終決定権がありません。
それは、率いる第二航空戦隊の空母飛龍・蒼龍の攻撃等の指示に関しても、同様でした。
私に、
あまり決定権がない・・・
自らが率いる戦隊に対して「攻撃等指示を下す権限のない」山口司令官。
この日本的で曖昧・中途半端な権限が、山口を悩ませることになります。
だが、
万全尽くすのみ!
山口司令官は、「自分にできることをしっかりやる」と強い熱意を持っていました。
真珠湾奇襲攻撃の中途半端な戦果:米空母不在
遂に日本海軍は、ハワイ真珠湾奇襲攻撃を実施します。
実は、この真珠湾奇襲攻撃は大きな標的だった米空母が不在でした。
米空母が不在なのは、
予定外だ・・・
なぜ、
米空母はいないのだ!
分かりません!
確かに数日前までは停泊していたようです・・・
空母を叩かなければ、
奇襲攻撃の効果が激減する!
この中、はるばる遠いハワイ真珠湾まで「ひっそりと進撃」して、戦果を上げていた南雲長官。
これは、
もう大戦果だろう!
いや、空母がいないなら、
大戦果ではない!
そこで、山口司令官は、真珠湾の基地の石油タンクや工廠(整備工場)を攻撃することを、進言します。
ならば、基地の
石油タンクを叩くべきだ!
そして、整備工場などを破壊すれば、基地としての
機能が大きく損なわれるはず!
南雲長官!
石油タンク、整備工場を叩くべきです。
内地(日本)で、奇襲攻撃計画を練っている時から、石油タンクなどへの攻撃を進言していた山口司令官。
私たちは、
すでに準備整っています!
もう
十分攻撃した!
米軍の戦艦を
沢山沈めた!
もう
十分だろう!
そんなことは
ない!
これでは、
不十分だ!
司令官といえども最終決定権がないため、司令長官が裁可しなければ攻撃が出来ません。
いわば、司令官は「中間管理職」に近い職権だったのです。
なぜ?
なぜだ!
ここで引き上げては、
奇襲攻撃の効果が薄い!
そろそろ、
米軍も反撃してきているし・・・
もう、
日本に帰ろう・・・
結局、石油タンクなどを攻撃せずに日本の攻撃部隊は退却します。
・・・・・
南雲長官は、
一体何を考えているのだ?
全く噛み合わない、山口司令官と南雲司令長官でした。
次回は上記リンクです。